PIXIVイラスト企画用挿し絵イメージ

PIXIVで応募されている挿し絵企画のイメージイラストです。
今回の企画は、「小説を読んで挿し絵を描いてください」という
企画ですので、とりあえず読んでカキカキしてます。
しかし、情報量がとんでもなく少ない(特にキャライメージ)
ので、色々と想像を働かせる部分が多くて、楽しくもあり、また
大変です(^^;)

CMYKモードでKだけを指定して色の濃さを決めて描いているので
より白黒印刷に近いグレースケールで描けていると思います。
しかし、こういうトーンじゃなく、フォトショップのグレースケ
ールのイラストは、印刷によっては徹底的に網が潰れる時がある
ので、戦々兢々だったりします(^^;)(笑

 

2010年11月1日


課題小説はコチラです。

殲滅ルキファー Annihilate Luxifer

著:十文字青 pixiv×スニーカー文庫


=1=

街灯もなく、足もとすら見えない暗がりや、
 夜更けには人が寄りつかない、どことなく無気味な場所には、
 足を踏み入れないほうがいい。
 
 暗闇には暗闇の、
 人を拒む理由がある。

 知らなかったんだ。考えもしなかった。
 
 ――こんなことになるなんて。

「……な……なん、で……」
 痛くはない。
 自分の腹とも胸とも言えない場所に、何か透明な、硬い、きっと鋭いものが、突き刺さっている。
 剣――のようなものが。
 それは、この体を貫いているのに、痛くはない。
 あるのは、強烈な異物感。ここにないはずのものがある、違和感。
 混乱。
 そして、この夜よりも暗い、とても暗くて深い、絶望。
「――言えない」
 よく知っている声が、でも、かすかに震えている声が、答えた。
「これから遠いところへ行くきみにも、話せない」
 すごく近い場所に、顔がある。
 よく知っている、顔が。
 彼女は白いロングコートを着ている。真っ白で、青いラインが入った、フード付きの、丈の長いコートだ。
 彼女は小さなころから背が高かった。そのことを気にしていたが、猫背になったりはしなかった。いつもすっと背筋をのばして、顎を少し引いていた。
 特徴があるから、すぐに見分けられる。普段ならば。
 今は、夜――真夜中だ。暗かったし、フードを目深にかぶっていた。
 それで、遠くから見たときは、わからなかった。
 まさか彼女だなんて、これっぽっちも思わなかった。
「遠く……って……」
 どこに行くんだ、おれ。
 伏し目がちで、向かいあって話すときは、たいてい上目づかいになる。
 その彼女が、大きく目を見開いていた。
「それも、知る必要はない」
 囁くように、早口で、彼女は言った。
 全身がうずく。心臓の鼓動にあわせて――これは、痛みだ。
 声を出そうとしたら、ため息のようなものがもれた。
「知らないほうがいい」
 涙声みたいに聞こえた。
 彼女に押し倒された。後頭部を、背中を、腰を、地面に打ちつけた。何か硬いものが地面にぶつかって、削るような音もした。剣かもしれない。
 激しい痛みが、はっきりと感じられた。
 気が遠くなるほどに。
 息ができない。背中を打って、息がつまったわけじゃない。
 首だ。絞められている。彼女の両手が。
 おれの、首を。
「……ごめんなさい」
 何を謝っているんだろう。
 彼女の手首をつかもうとしたが、手に力が入らなかった。
 暗くてよくわからない。でも、彼女はたぶん、顔をくしゃくしゃにしている。
「一瞬で、終わらせようとしたのに……外してしまった」
 終わらせる? 一瞬で? 何を――
 何を言っているんだろう。
 わからない。
 わからないよ。
「ごめん……」
 何回 謝られても
 苦しくて
 暗くて
 もう 何も――
「美早」
 彼女の名を呼んだ。
 呼ぼうとしたつもりだけど、声になったのかな。
 有高美早。
 小学生のころから、知っている。中学も、高校も、同じだ。今も、同じクラスだ。
 それなのに、なんで。
 どうして、こんなことに。
「ごめんなさい、伊吹」
 美早の声はもう遠かった。
「わたしを、許さないで」
 泣いているのか。
 泣くなよ。
 ぼんやりとそう思った直後、相馬伊吹の意識は本物の闇に落ちた。

=2=

「――――え…………」
 声。
 誰の声だろう。
 自分の。
 そうだ。自分の声だ。
 明るい。
 目を――開けた。
 白い。何もかもが。ぼやけている。でも、白い部屋だ。真っ白い天井。
 ここは、どこだろう。
 誰か、いる。
 ぬっと視界に入ってきて――見下ろしている。誰か? 人……?
 黒い。長い、とても長い、髪の毛なのか。顔は――面をつけていて、わからない。白い、面。
 両目と、口のところに、薄く切れ込みが入っているだけの、白い面を。
「目覚めたか」
 低くて深い、男の声だった。
 白い面をつけた男が、黒い手をのばしてきた。目をふさがれた。
「今しばらく、眠るがいい」

=3=

――それで……おれは、眠ったのか……?
 本当は、ずっと眠っていたのかもしれない。ぜんぶ夢だったのかもしれない。
 きっとそうに違いない。
 ここは、ベッドの上だ。自分の部屋の、自分のベッドで、布団もかけずに寝ていたらしい。
 レースのカーテンが閉まっている。暗くはない。橙色の光。部屋は西向きだ。夕方か。
 腹のあたりをさすってみた。なんともない。でも、変だ。服が。
 服が、違う。
 伊吹は起きあがって、自分の体を見まわした。灰色のスラックスに、白いワイシャツ。違う。これは、おれの服じゃない。
 今、何時なのか。時計。ない。この部屋には。携帯電話ですましている。そうだ、ケータイは……?
 ポケットの中にはない。枕元にもない。ベッドから降りて、携帯電話を探した。ない。どこにもない。
 部屋を出た。伊吹の家は、3LDKのマンションだ。誰もいないのか。リビングに行って、壁掛け時計を見た。五時半。午後だろう。テレビをつけた。
 ニュース番組だった。日曜日だ。日曜の、午後五時半――
 おかしい。
 いつだ? あれは――金曜日。両親がそろって休みをとり、二泊三日の旅行に出かけた。だから、遅くまで遊んで――その帰り道だった。暗い、街灯なんかなくて、とにかく暗い、道。
 伊吹は腹と胸の境目あたりを手で押さえた。
「……美早」
 夜道の向こうに、白い人影を目にしたとき、幽霊かと思った。
 違った。生きている人間だった。白いコートを着ていただけだった。
 そいつは、剣のようなものを持っていた。誰かと、まるで剣道の試合でもしているみたいだった。だけど、あれは試合じゃない。
 相手が倒れた。
 そして、見つかった。
 白いコートを着た人物は、美早だった。
「……刺された。刺したんだ。おれを……美早が。それから、首を……」
 伊吹は首をさわった。
 覚えている。はっきりと。
 でも、生きている。
「なんで……」


 両親は午後七時過ぎに帰ってきた。土産を無理やり食べさせられ、土産話をたっぷり聞かされたが、まったく頭に入らなかった。
 その日は寝つけなかった。朝方に一時間半くらい眠っただけだった。
 ぼんやりと朝の支度をして、家を出ようとしたら、インターホンが鳴った。
 伊吹はちょうどインターホンの近くにいた。出ようとして、モノクロのディスプレイを見た。知っている顔が映っていた。
「……藤枝?」

(続く)