新しく発言する EXIT 「北へ。」
やっと完結です














  やっと完結です 岡村啓太 2003/04/10 13:53:35 
  AnotherStoryofTanya 岡村啓太 2003/04/10 13:55:23 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 13:56:15 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 13:57:18 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:00:07 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:02:24 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:03:22 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:06:33 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:08:35 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:09:37 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:10:21  (修正1回)
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:11:54 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:13:49 
  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:14:20 
  エピローグ赤いスズランの向こうには 岡村啓太 2003/04/10 14:15:18 
  あとがき 岡村啓太 2003/04/10 14:15:53  (修正2回)
  読みました〜&掲載完了〜♪2003/04/15 02:05:34 
  │└掲載ありがとうございます(追加のお願い) 岡村啓太 2003/04/16 16:42:46  (修正2回)
  素敵なお話ありがとうございました〜 ろっきゃん 2003/04/18 21:10:02 
  │└ありがとうございます〜 岡村啓太 2003/04/19 15:41:58 
  お疲れ様でした! 長良川の鮎 2003/04/18 22:49:17  (修正1回)
  │└お世話になりました 岡村啓太 2003/04/19 15:43:33 
  読みましたよ〜♪(^-^)/ Hit-C★琴護ちゃ! 2003/04/19 02:31:23  (修正2回)
   └感想ありがとうございます〜♪ 岡村啓太 2003/04/19 15:44:40 














  やっと完結です 岡村啓太 2003/04/10 13:53:35  ツリーに戻る

やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 13:53:35
Another Story of Tanyaですが、ようやく書き上げる事が出来ました。
第1話を書き上げたのが去年の10月でしたから半年もかかってしまったんですね。
いや〜、長くかかりまいましたね。
ともかく前置きをこれぐらいにしまして
どうぞ本編をご覧ください。














  AnotherStoryofTanya 岡村啓太 2003/04/10 13:55:23  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 13:55:23
Another Story of Tanya

第5話  舞い散る桜の下で


「えっ・・・」

 最初は秋吉は何を言われたのかが咄嗟には理解出来ていないようで呆然としてしていた。
 しかし次の瞬間にはその表情に理解の色が浮かび、驚きへと変わる。

 そして、その言葉を発したターニャ自身も驚いていた。
 ターニャ自身はそんなことを言うつもりなんてまったくなかったのだから。
 それなのに、赤いスズランを見た瞬間から、ターニャの心の内で押さえられない衝動が沸き起こった。
 そして自分でも気がつかない内に言葉を口にしていたのだ。
 しかし、ターニャはそんな内心の動揺を胸の内へと飲み込むと、

「好きです」

 もう一度
 今度ははっきりとした自分の意志を込めて告げた。
 そして秋吉を見つめ返す。
 期待と不安が入り混じった瞳で。

 どれくらいその状態が続いただろうか。
 1分?
 それとも5分?
 それとも10秒ほど?
 ともかく、2人にとっては無限とも思えるほどの時がたった後
 秋吉は何も言わずにターニャから目をそらした。
 困惑と苦悩にも似た表情を顔に浮かべながら。

(っ!)

 そんな秋吉の表情を見た瞬間、ターニャの心の奥にズキリとした痛みが走る。
 そして急速に後悔と悲しみと罪悪感が心に広がってゆき、自分のした事が怖くなってきた。

「・・・ター」

「ごめんなさい!!」

 だからターニャは何かを言おうとした秋吉の声を大声で遮った。
 秋吉がたとえ何を言ったとしても怖くて聞けそうになかったから。

「こんなことを言ったら、秋吉さんのことを困らせるだけだって・・・分かってはいたんです。
 でも・・・でも、もう心の内だけでずっと想いを溜め続けておくのは、とても辛かったんです。
 ずっと・・・ずっと苦しかったんです。
 ・・・・・・
 でも・・・こんなのはただ私が我侭を言っているだけなんですよね。
 こんなのは秋吉さん困らせてるだけなんですよね。
 ですから・・・さっき私が言ったことはすぐに忘れてください」

 そうしてターニャは微笑もうとしたけれど表情が少し歪んだだけでうまく出来なかった。
 しかも目からは今にも涙が溢れてきそうで、秋吉を見ていることも辛くなってきている。

「さようなら!!」

「ターニャ!!」

 だからターニャは秋吉に背を向けると一気に駆け出した。
 後ろから秋吉の呼び声が耳に届いてはいたけれど、振り返ることも立ち止まることも出来ない。
 ただ、がむしゃらに走り続けることしか出来なかった。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 13:56:15  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 13:56:15
<上からのつづき>

 走り出すとすぐに瞳から涙が零れ落ちてきて視界が歪んでくる。
 でも涙をぬぐうことも出来ず、走ることを止めることも出来ない。
 途中何人か人にぶつかった気がしたがそれも分からない。
 ただ何かに突き動かされるように、何かから逃げるように足が前に出た。


取り返しのつかないことをしてしまった

私はいったい何を期待していたんだろう

どうして口に出してしまったのだろう

ずっと心の中にだけしまっておけば

ずっと黙っていれば

すくなくとも側にはいられたのに

でももうダメ

もう、秋吉さんと顔をあわせられない

はやかにも会えない

会わせる顔がない


 心の内から次々と生まれては消えてゆく様々な想いや感情をあふれさせながらターニャは走り続けた。
 しかし、もともと丈夫ではないターニャの心臓が堪えきれなくなって悲鳴を上げ始める。
 それと同時にターニャの足取りが危うくなってゆき、足がもつれ始めた。

(あっ!)

 と、思った時にはすでにターニャの身体はバランスを失っており、目の前に地面が迫ってきていた。

ドサッ

 そしてターニャの身体は道へと投げ出される。

「うう・・・」

ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ

 身体の痛みを感じる暇もなく、心臓が嫌な音をたて、それと同時に息も苦しくなってくる。

「はぁ、は、は、はぁ、は」

 呼吸がうまく出来ず、道に横たわったまま身悶えるターニャ。
 
(薬を・・・)

 そう思ってバックを探ろうと手を伸ばす。
 しかし、それより先に脳の奥から目の方に向かって急速に闇が押し寄せるような感覚がターニャを襲う。
 そうなると、視界がだんだんと失われてゆき、ついには何も見えなくなる。
 そして
 ターニャの意識はそこで途絶えた。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 13:57:18  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 13:57:18
<上からのつづき>

 ターニャが目を覚ました時、まず見えたのは見知らぬ天井だった。

(ここは・・・いったい・・・?)

 どうやら自分はベットに横になっているらしい事は分かる。
 しかしそれ以外に自分の状態をまったく呑み込めないターニャは首を巡らせて辺りを見まわしてみた。
 右には窓があり、暗い夜空が見える。室内が明るいせいか星は見えない。
 そこから今がもう夜なのが分かった。

(今何時だろう?)

 ふと、そんなことが気にかかった。
 左に目を向けると、そこには点滴が下がっており、そこからのチューブが自分の左腕に繋がっている。
 そこでようやく自分が病院のベットに横になっているらしい事を理解した。

(でも・・・。なぜ病院に・・・?)

 しかしその理由までは分からない。
 それから少し頭を悩ませると、次第に記憶が鮮明になってきた。

(あっ・・・)

 そしてすぐに思い出した事を後悔する。
 ずっと忘れていた方が幸せだった記憶。
 本当なら消してしまいたい出来事。

(夢なら・・・本当に夢ならよかったのに・・・・・・。でも、あれは現実)

シャッ

「あっ、目が覚めたんだ。良かった〜。あの時はこのまま目を覚まさずに死んじゃうかと思ったから」

 その時カーテンが開いて、見知らぬ女性が姿を見せた。
 彼女はターニャの様子に安堵の吐息を吐くと笑顔を向けてくる。

「あの・・・あなたは?」

 しかし事情のまったく分からないターニャはそんな彼女の態度に戸惑ってしまう。

「あっ、いきなりごめんね。わたしは桜町由子」

「私はターニャ・リピンスキーです。もしかしてアナタが私をここまで?」

「うん、そうなんだけど」

 服装から医者や看護婦ではないだろうと判断したターニャの予想は正しかった。

「すみません。ご迷惑をおかけして・・・」

「あっ!まだ起きない方がいいよ。それに礼なんていいよ。でも、あの時はホントに驚いたなぁ」

 ターニャは頭を下げるためベットから身を起こそうとしたが、由子はそれを手で制す。
 ターニャも由子の勧めに従って再びベットに身を横たえる。
 それを見届けた由子はベットの脇にある丸イスに腰をかけた。

「前から女の子がよろよろと走ってきて、横を駆け抜けていったから何事かと思って振りかえったら、
その子が急にへたりこんで、そのまま倒れちゃうんだもん。
こりゃ大変だってんで、駆け寄ってみたら息は荒いわ意識はないわでさ」

 ターニャは由子の話を聞いている内に自分が何をしでかしたのかが分かり、だんだん恥ずかしくなってきた。
 それと同時に見ず知らずに他人にどれだけ迷惑をかけたか分かり、自分が情けなくなってくる。
 そのためターニャの表情は由子の前で見る見るうちに暗くなってゆく。

「あっと、ゴメンゴメン。本人の前でする話じゃないよね」

 そんなターニャの心情を雰囲気で察したのか、由子は手を軽く振りながら謝ってくる。

「いえ・・・」

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:00:07  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:00:07
<上からのつづき>

「ま、大事がなくて良かったよ。でもなんであんな無茶な事したの?」

「それは・・・」

 そこでターニャは言葉を詰まらせた。
 事情を説明するには、自分の事を全て話さなければならない。
 でも、それは簡単に説明できるような内容ではないし、他人に話したいような事でもない。

「医者から聞いたんだけど、ターニャって心臓が丈夫じゃないんでしょ。
それなのに、倒れるまで走らなくちゃいけなかった。どうして?」

 しかしターニャが口をつぐんでも由子は構わず尋ねてくる。
 由子の口調から単なる好奇心だけで聞いているのではない事はターニャにも分かる。
 おそらく彼女は純粋に自分の事が心配で言ってくれているのだろう。

「・・・」

 しかし、ターニャの表情はまだ堅く、口を開こうとはしなかった。

「わたしってさ、こう見えても自衛官なの」

「えっ?」

 ターニャは由子のいきなりの話題転換におもわず彼女の顔を見る。
 由子はターニャがこちらを向いてくれたのがうれしかったのか、微笑みを浮かべながら優しい顔でターニャを見つめていた。

「自衛官には機密は絶対に他人に話してはいけないって守秘義務があるのよ。
だからタ―ニャが話した事だって絶対に誰にも言ったりしない。
それに悩みは他人に話すと案外簡単に解決する事もあるって言うじゃない」

 由子はそこまで話し終えると、今度は照れた笑みを浮かべた。

「でもまぁ、ターニャが悩んでいるかもって思ったのはただの勘だから。
わたしは勝手に勘違いしている、ただのおマヌケなお節介焼きなのかもしれないけどね〜」

「くすっ」

 ターニャは由子のおちゃらけた態度が可笑しくて、思わず笑みを浮かべていた。

「あっ、やっぱりわたしってただのマヌケだった?」

「いいえ・・・。聞いてくれますか、私の話・・・」

 そんな由子の笑顔と雰囲気からターニャは彼女が信用できる人だと思い、話してみる気になった。
 けれど本当はそんな信用など必要なくて。
 ホントはずっと前から誰かに話したかったのかもしれない。

「うん」

 ターニャの表情が引き締まるのを見て、由子も表情を改めるとターニャの話に耳を傾けた。



 ターニャは自分がこの国渡ってきた訳から話し、
 それから葉野香に出会った事、葉野香から彼女の恋人の秋吉を紹介してもらった事を話し、
 そして秋吉に自分の夢を叶える手助けをしてしてもらった事、
 その時からだんだんと彼のことが好きになってしまった事を話し、
 そして想いを告げてしまった事を話した。

「そっか・・・」

 由子はターニャの話を聞き終えると、難しい顔をして腕をくんだ。

「すみません。こんな話をしてしまって・・・」

「謝らないで、無理に聞いたのはこっちなんだから。
その〜・・・。葉野香ちゃんだっけ。彼女とその秋吉くんの仲ってどうなの?」

「誰が見ても、理想のカップルだと思います。私もそう思ってますし・・・」

「それじゃあ、ターニャが入りこむ余地なんて・・・」

「まったくありません」

 ターニャはそう言うと途端に表情を暗くした。

(あっ!)

 そんなターニャを見て、由子は自分が失言を呟いてしまったことに気づく。

(しまったぁ〜)

 由子は心の中で頭を抱えたが、1度口から出た言葉は元には戻らない。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:02:24  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:02:24
<上からのつづき>

「私・・・。これからいったいどうしたらいいんでしょうか・・・?」

 ターニャはうつむいてシーツに目を向けると、まるで独り言を呟くかのように尋ねてくる。
 由子は‘ふぅ’とターニャに聞こえないように小さく息を吐くと決心して口を開いた。

「・・・・・・わたしもね。似たような経験があるよ」

「えっ?」

 由子が放ったその言葉はターニャの心を強く惹き付け、彼女を再びこちらに振り向かせた。

「わたしね、ずっと片思いしてたんだ。
その人はね。わたしが小さい頃に山で車がエンストした時、困っていたわたしたちを助けてくれた人なんだ。
その人は自衛官でね。わたしが自衛官になった理由に、彼にもう1度会いたかったってのもあったんだ」

「それで、その人には会えたんですか」

「うん。
会えた時は涙が出るくらい嬉しかった。
でも、その人はわたしのことなんて覚えてなかったけどね。
でも仕方ないよね。あの時のわたしは、まだ10歳の小学生だったし・・・。
それからあの人と一緒に仕事をするようになって、ますます好きになっていって・・・。
そして何時かはこの想いを告げようって思ってた」

「それで、想いは告げられたんですか?」

「・・・・・・わたしって恋愛事には慣れていなかったから。
‘振られたらどうしよう’とか
‘告白した途端、今の関係まで壊われたらどうしよう’とか
‘嫌われるくらいなら、いっそこのままの方がいい’とか
なんだかんだと自分に理由つけて、ずっと告白を先延ばしにして・・・。
そうしたら、その人。
わたしが何も言わないうちに、後輩の子と結婚しちゃった・・・」

「えっ・・・」

 その言葉を聞いた途端、今まで興味深げだったターニャの表情が曇る。

「だからさ・・・わたしの想いって今でも宙ぶらりんのままなんだよね」

 しかし由子はそんなターニャの様子には気づかないのか、虚空を見たまま話を続ける。

「断られても、嫌われても、あの時キチンと告白していればって、今なら考えちゃうんだ・・・。
だから、わたしから言える事は、
ターニャは決して間違った事はしていない。
ずっと想いを胸に溜めておくより、たとえどんな結果になっても自分の気持ちを相手に伝えた方がきっと良い結果つながる。
と、わたしはそう思うよ」

「でも、秋吉さんにははやかが・・・」

「・・・・・・ターニャ。アナタが今1番恐れてる事って何?」

「えっ?」

「たぶん、今のアナタたち3人の関係が壊れてしまうことじゃない」

ドクン

(!!)

 由子の言葉がターニャの胸にするどく突き刺ささり、呼吸が一瞬止まる。

「自分が告白した事で2人との仲がぎこちなくなったり、その友達から嫌われたりすることが恐いんでしょ」

「それは・・・」

 そんなターニャの様子に構わず話を続けてくる由子に対して、ターニャは何も言葉を返す事ができない。

「でもね、考えてみて。
アナタはさっき言ったよね‘誰が見ても、理想のカップル‘って。
それが本当だったら・・・。残酷な言い方になっちゃうけど、ターニャが告白したからって2人の仲が揺らいだりはしないと思う。
それと、次は逆に考えてみて。
もしターニャの方がその秋吉くんと付き合っていて、葉野香ちゃんが秋吉くんに告白したとする。
その時ターニャは葉野香ちゃんのことを嫌いになる?」

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:03:22  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:03:22
<上からのつづき>

 ターニャはその問いに対して思いをめぐらせてみる。
 何度も、いくつもの想定を考えてもみた。
 しかし、どれも同じ結果が出てくる。

「・・・・・・いいえ。はやかを嫌いになることなんて絶対ありません」

「うん・・・。それだけ言えるならわたしから言うことはもう何もないね」

 由子は満足そうに微笑むと表情を緩めた。
 それにつられてターニャの表情も自然と緩んでくる。
 そして、心がずいぶんと楽になっていることが分かった。

「はい・・・。ありがとうございました」

「じゃ、わたしはそろそろ行くね。
 あっ、そうそう、言い忘れてたよ。
 医者の話だと、しばらくは入院することになるかもしれないらしいよ」

 由子は丸イスから立ち上がると、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

「それと・・・」

 由子はメモを取りだしサラサラと何かを書くと、それを破ってターニャに手渡してくる。

「はい、これ、わたしの携帯の番号。また何か困った事や相談したい事があったら気楽にかけてきてよ」

「いいんですか?」

「あはは。いいの、いいの。仕事中は出られないけど、それ以外の時ならたぶん大丈夫だから」

 ターニャはメモを受け取りながらも戸惑った表情をしていたが、由子は笑いながら手をひらひらと振ってくる。

「はい・・・。今日は色々と本当にありがとうございました」

「ううん、気にしないで。それじゃあ、またね。バイバイ」

 そして由子は笑顔で手を振りながら病室から出ていった。

「はい、さようなら」

 ターニャも微笑みを浮かべながら小さく手を振って見送った。
 そしてドアが閉じると同時に、急に部屋に静けさが戻ってくる。
 ターニャはその静けさに少し不安を覚え、辺り視線をさまよわせた。
 すると、近くの台の上に自分のバックがあった。
 ターニャはバックを引き寄せると中を開けて探ってみると、なくなっているものは何もなく元のままだった。
 そして1枚のプリクラが目に止まる。
 ターニャはおもむろにそれを取り出してみた。
 そこには笑っている3人の姿が映っている。

(秋吉さん・・・。困らせるようなことを言ってしまってごめんなさい。
 はやか・・・。私のこと、嫌わないでいてくれますか・・・。
 こんな風にまた3人で笑い合えるようになれますか・・・)

 ターニャはそのまま見ているとまた涙が溢れてきそうになった。
 だから、そうなる前に目元を拭うと、プリクラをそっとバックの中へと戻した。
 そして身体の力を抜いてベットに身をまかせる。
 それから由子から言われた事について思いを巡らせようとした。
 しかしベットに横になって気を抜いたせいか、眠くなってきて頭がうまく回ってくれない。
 だからターニャは考える事を止めそのまま、まどろみに身をまかせることにした。
 出来れば夢を見ずに眠れますようにと願いながら。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:06:33  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:06:33
<上からのつづき>

 次の日、昨日の願いが通じたのかターニャは夢を見ることなく目を覚ました。
 そして午前中に検診を受けたターニャは念のためもう一日入院するようにと医者から申し渡される。
 仕方なくターニャは午後はベットに横になって過ごしていた。
 といっても、何もない病室内で出来る事などたかがしれている。
 眠るか、窓の外を見るか、考え事するか、ぼーっとするかのいずれかであろう。
 ターニャは窓からの景色を眺めながら考え事をすることを選んだ。
 考えなければならないことは山ほどあるはずだから。
 病室の窓からは病院の庭が見えた。
 その庭には病院を取り囲むように桜の木が植えられている。
 満開の時期を少し過ぎている今では、しきりに桜の花びらが宙を舞い踊っていた。
 考え事をしようとしていたターニャであったが、その景色の目を奪われてあまり頭は働いてくれない。

(日本の桜は本当にキレイです・・・。でも最近の私はそんな桜の花に目をやる余裕すらなくしていたんですね)

 本当は毎日でも見ていたはずの桜の花。
 でも今日初めて咲いている事に気づいたようであった。

コンコン

 そんなターニャの耳にノック音が飛び込んでくる。

「はい、どうぞ」

 おそらく医者か看護婦がやって来たのだろうと思って、ターニャは返事を返した。

ガチャ

 しかし、そこには息をきらしながら心配そうな顔をしている葉野香の姿があった。

「えっ!?」

「ターニャ!」

 ターニャが目の前の光景が信じられず呆然としていると、葉野香が駆け寄って抱きついてくる。

「よかった〜・・・。心配したんだよ、ターニャ・・・」

「はやか・・・」

 そこでようやく葉野香の事をちゃんと認識できたターニャは優しく抱き返した。

「ごめんなさい、はやか。心配かけて・・・」

「ホントだよ。ホントに心配したよ〜。でも思っていたよりも元気そうで、安心した」

 ターニャから身を離した葉野香の目は少し涙目になっていたが、顔には安堵の表情が浮かんでいる。

「でも、どうしてここに?」

「ん・・・」

 葉野香はその問いにすぐには答えず、まず近くにあった丸椅子を引き寄せて腰掛けた。

「昨日の晩、ターニャの携帯に電話したんだけど、全然繋がらなくってさ。不思議に思ってたんだよ。
それで今日工芸館に電話したら、入院したって聞いて。すぐに駆けつけて来たんだ」

「そうだったんですか。ごめんなさい、実は・・・」

 ターニャはそこまで言ってから言いよどむ。
 ちゃんと説明するには、昨日の秋吉との事を言わなければならなくなる。
 しかしその事を言えないターニャには葉野香にどう説明していいか分からない。
 何か言わないと、頭では思っているのだが、うまく思考がまとまってくれない。
 焦りのためかターニャの視線がうろうろとさ迷い出す。

「ターニャ・・・。言わなくていいよ。もう全部知ってるから」

「えっ!」

 葉野香の言葉にターニャの身体がビクリと震える。
 そしてターニャは葉野香を凝視したまま動けなくなった。
 ターニャの瞳には誰の目にも明らかなほど動揺と困惑の色が浮かんでいる。

(はやかに知られてしまった?何故?どうして・・・?まさか・・・!?そんな・・・)

 葉野香はそんなターニャの瞳から彼女の考えを読み取ったかのように話し出す。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:08:35  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:08:35
<上からのつづき>

「でも誤解しないでね。耕治さんが話したんじゃないんだよ。
今日、耕治さんにターニャと連絡がつかないこと話したら、途端に様子がおかしくなって、
それで何か知っているようだったから、あたしが無理やリ聞き出したんだ」

「・・・」

 ターニャは葉野香の顔を見ていられなくなって視線を下に落とした。
 それでも構わず葉野香は話し続ける。

「最初は・・・やっぱり驚いた。
‘耕治さん、いったい何言ってんだろ’って、自分の耳が信じられなかったよ。
でも、耕治さんの表情を見て、ホントの事なんだって分かった。
それから・・・何だか頭の中が訳わかんなくなっちゃって‘とにかくターニャを探さなきゃ’って。
その時はそれしか思い浮かばなかったよ。
だからすぐに運河工芸館に電話したんだ。
そうしたらターニャは病院に入院したって聞いて、
あたしまたびっくりして、
それで急いでここまで駆けつけて来たんだよ」

「そうだったんですか」

「うん・・・」

 そこまで話し終えると2人は黙り込んでしまう。
 ターニャはうつむいたままシーツをじっと見つめ続けている。
 知らぬ間にターニャはシーツをぎゅっと掴んでいた。
 葉野香はターニャの顔から視線をそらしてベットの脇のカーテンの方を見ている。
 部屋の外からはガラガラというカートを押す音と看護婦らしい人の話声が聞こえてくる。
 壁越しには微かにテレビのものらしい音もする。
 窓もカタカタと風に押されて小さく音を立てている。
 しかし、それらの物音など掻き消すような重苦しい静寂が部屋を包んでいた。

「・・・・・・ごめんなさい、はやか」

 そんな静寂をターニャの方から無け無しの勇気を振り絞って破った。

「えっ?」

「私のこと・・・軽蔑しましたよね」

「そんなこと!!」

「いいんです。
私は嫌われても仕方ないようなことを仕出かしてしまったのですから、それが当然です。
 でも、私・・・ずっと辛かった。
 秋吉さんに惹かれ始めて、好きになって。でも、はやかの事も大好きで。
 だから秋吉さんのことは諦めようと思って・・・。
 でも、そう思ったらもっともっと苦しくなって・・・。
 でも私、絶対2人には嫌われたくなかった!!
 嫌われてしまうのが怖かったから。
 またひとりぼっちになるのが怖かったから。
 だからずっと・・・ずっと我慢していようって・・・。
 私が我慢してさえいればみんな幸せでいられるって・・・。
 なのに私・・・私・・・」

「ターニャ!!」

 葉野香はターニャの頭を引き寄せると自分の胸へと掻き抱いた。
 抱きしめたターニャの身体は細かく震えていて、その振動が葉野香にまで伝わってくる。

「もういいよ、ターニャ。もう話さなくてもいい。ごめんね、ターニャ」

「どうしてはやかが謝るのですか?悪いのはわた」

「あたし・・・ターニャが何かで悩んでた事には気づいてたけど、その理由までは分からなかった。
 だから・・・。何であたしに相談してくれないんだろ?って、ずっと思ってた。
 あたしってターニャに信用されてないのかな?って、友達だって思われてないのかなって・・・。
 そんな事考えたりして、実は落ち込んだりもしてた。
 でも・・・・・・言えないよね。言えなくて当然だよ。友達だったらよけいに・・・。
 なのに、あたしったら・・・」

「どうして・・・」

「え?」

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:09:37  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:09:37
<上からのつづき>

「どうして怒らないんですか?どうしてそんなにはやかは優しいんです!?
 はやかは・・・はやかは優しすぎます!!
 はやかも秋吉さんもとっても優しいから・・・。それがよけいに辛くて・・・苦しくて・・・」

 ターニャは葉野香の胸に抱かれたまま戸惑いを多分に含んだ声をあげる。
 その声は最初ははっきりしていたが最後の方には涙まじりの振るえた声になっていた。

「違うよ。本当に優しいのはターニャだよ」

「そんな・・・そんなこと・・・」

「ターニャが1番優しいから。こんなにいっぱい苦しんで、傷ついて、1番辛い思いしたんだよ」

「うぅ・・・ひっく・・・うぅぅ・・・」

 そしてついにターニャの瞳からぽたぽたと涙の雫がこぼれ始める。

「泣かないでよ、ターニャ。あたし・・・好きな人にはいつも笑っていて欲しいからさ」

 しかし、そう言う 葉野香の目にも少し光るものが浮かんでいた。

「ひっく・・・。まだ・・・私のこと・・・ひっく・・・好きだと言ってくれるんですか?」

「当たり前だろ。あたしがターニャを嫌いになるなんてありえないよ」

「うぅ・・・うわぁ〜〜ん、はやか〜〜!!」

 ターニャは感極まったような叫びをあげると、葉野香に力いっぱい抱きつき、子供のように泣きじゃくる。
 葉野香もそんなターニャを抱き返しながら、ターニャに気づかれないように瞳をうるませていた。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:10:21  (修正1回) ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:10:21 ** この記事は1回修正されてます
<上からのつづき>

 翌日
 検査を終えて、退院を言い渡されたターニャは病院の玄関をくぐり外に出た。
 外はよく晴れており、病院の蛍光灯の光に慣れたターニャの目には少し眩しいくらいだ。
 そして、そんなターニャの瞳に穏やかな春の日の光をうけながら立つ1人の青年の姿がうつった。

「退院できたんだね。おめでとう、ターニャ」

「秋吉さん!?えっ!?どうしてここに・・・」

 意外な、そして予想外な人物の登場にターニャは目を白黒させて驚いた。

「お見舞い、に来たんだけど・・・。一足遅かったかな」

「えっ?あっ、はい。そう、かもしれませんね・・・」

 まだショックから立ち直りきっていないのか、ターニャのセリフはどこかたどたどしい。
 それはターニャ自身が秋吉に会うための心積もりをまだ何もしていなかった事が大きいのだろう。

「でも・・・。よかったら、少し一緒に歩かないかな?」

「・・・はい」

 それでもどうにか気を持ち直すと秋吉の誘いに素直に従った。
 そしてターニャは秋吉に歩み寄ると肩を並べて桜の並木道へと歩き出す。
 2人の間には友達以上、恋人未満といったような微妙な距離を保ちながら。

「ここの桜って綺麗だね」

「はい、私も昨日見てそう思いました。日本の桜ってとても綺麗です」

 歩き出すと、2人はすぐにそう会話を交わした。
 しかし2人会話はそれっきりで、後は2人とも舞い散る桜を眺めながらただ歩く。
 そして桜を数本こえたあたりで秋吉は不意に立ち止まった。
 そのため秋吉を置いて少し先行してしまったターニャが振りかえると、秋吉は神妙な顔をしていた。

「秋吉さん?」

「・・・・・・今日は、本当はあの時の返事をしに来たんだ」

「えっ!?」

 突然の言葉にターニャは言葉を失って、まじまじと秋吉を見つめる。
 秋吉の方は真剣な表情でターニャを見つめ返してくる。

「あの時はちゃんと返事が出来なかったから」

「あっ・・・」

 ターニャはあの日の事を思い出した。
 たしかにあの時自分は秋吉が何か言おうとしたのを一方的に遮って、逃げ出すように走り去ったのだ。
 あの時のことは今思い出しても、まだ胸が苦しくなる。
 あれからずいぶん日がたったようにも思えるが、まだ2日前のこと。 
 ‘思い出’と言うにはまだ新しすぎる出来事だ。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:11:54  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:11:54
<上からのつづき>

「いいかな?」

 ターニャは少しうつむくと目を閉じ、胸に手を当てて深く深呼吸をする。
 心を落ち着かせ、心に準備をさせるために何度も何度も。
 それから顔を上げ、真っ直ぐに秋吉の目を見詰め返した。

「はい。返事を聞かせてください」

「うん・・・。正直に言うと、あの時はホントに驚いた。そして困った」

 そう聞かされてターニャの胸にチクリとした痛みが走る。

「ターニャに告白されて・・・自分がターニャの事をまったく意識していなかった訳じゃないって、気づかされたから」

「えっ!!」

「だから困った・・・。それでずっと考えていた。
でも・・・、どんなに考えても出てくる答えはいつも一緒だった。
僕にとって一番大切な人は・・・やっぱり葉野香なんだって」

 ターニャは秋吉が言い終えると辛そうに顔を伏せた。
 秋吉の方も困ったような辛そうな顔で視線をそらす。
 そして2人はそのまま黙りこんでしまう。
 しばらくそのままの状態が続いた後、ターニャがポツリと呟くように口を開いた。

「秋吉さんは・・・ひどい人です」

(!!)

 ターニャの一言が秋吉の胸に鋭く突き刺さる。
 ある程度は覚悟していたとはいえ、こんなにストレートな言葉がくるとは予想していなかった。
 そのため秋吉の胸に深い罪悪感がこみ上げて来る。
 しかし、何故かその言葉を発したターニャの瞳には涙が浮かんでいた。

「こういう時はもっとキツイ言葉でふってくれた方がずっと楽なのに・・・。
 こんな優しい言葉を・・・。
 これじゃあ私・・・・・・もう、我慢出来ないじゃないですか!!」

 ターニャはいきなり秋吉に抱きつくと、自分の顔を秋吉の胸に押し付けた。

「ターニャ?」

 秋吉は突然のターニャの行動に驚き戸惑う。
 そして、どうすればいいのか分からず、自分の手をターニャの肩の上ぐらいでふらふらとさせる。

「ごめんなさい・・・しばらく、こうさせてください・・・」

 秋吉はその声を震わせながらしがみついてくるターニャの言葉でようやく落ち着きを取り戻せた。

「うん・・・」

 そして優しく抱き返す。
 すると、ターニャは抱きつく腕にさらに力をこめ、そして声を殺して涙を流し始めた。
 そんな2人の頭上から桜の花びらが1枚、また1枚と舞い降りてくる。
 そして2人の頭や体に少しづつふり積もっていった。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:13:49  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:13:49
<上からのつづき>

 桜の花びらが頭に積もる前にターニャの涙はおさまったが、ターニャは秋吉から離れようとしなかった。
 それからまた少し時がたち、ようやくターニャは秋吉から身を離すと、恥ずかしそうに顔を伏せる。
 その拍子にターニャの頭に乗っていた桜の花びらの何枚かが舞い落ちる。 

「ごめんなさい。服・・・濡らしちゃいました」

 視線を下げて見てみると、たしかに服には丸い染みが2つ出来ている。

「ああ・・・これぐらい平気だよ」

 秋吉は笑って許しあげながら、ターニャの頭の上の桜の花びらを取ってあげた。
 しかしターニャは恥ずかしそうに顔を伏せたままだ。

「もう何を言われても泣かないって、そう決めてたんですけど・・・。ダメですね、私」

 ターニャはそう言って顔をあげるとぎこちなく微笑んだ。

「でも・・・。約束、守ってくれなかったですね」

「えっ?」

 秋吉はその‘約束’が何のことなのか分からず、間の抜けた声をあげる。

「すぐに忘れてくださいって、お願いしていたのに・・・」

 そう言われてようやく秋吉はあの日に言われた事をようやく思い出す。

「あっ、ん・・・ごめん」

 しかし思い出したところで、バツの悪い顔で謝ることしか出来なかったけれど。

「いいえ、いいんです。本当は忘れられる方がずっと辛かったと思いますから」

 ターニャも別に何かを期待して言ったわけではないようで、気にしている様子はなかった。

「でも秋吉さん・・・。もう1度、今度は別の約束してくれませんか?今度のは絶対に守ってほしいことなんですけど」

「えっ、うん。いいよ、何?」

 秋吉はターニャの雰囲気から少し緊張した面持ちで返事を返す。
 ターニャは秋吉の返事を聞いた後、胸に手を置き、一拍おいて心を落ち着かせた。

「また・・・この間みたいに、秋吉さんとはやかと私と3人で遊びに連れて行ってください。
 今は、まだ秋吉さんと一緒にいるのはちょっと辛くって無理なんですけど・・・。
 きっとまた2人の前でも笑えるようになりますから・・・。
 だから、約束してください」

「うん、約束するよ。何時でもいい。また3人で遊びに行こう」

「ありがとうございます。うれしいです」

 そこでターニャは今日初めてターニャらしい笑顔を見せてくれた。
 しかしそれも一瞬のことで、すぐに何かが咽の奥でつかえて苦しいような、複雑で少し歪んだ表情を見せる。
 そして何度か何かを言おうとしては躊躇した後にようやく口を開く。

「秋吉さん。もし・・・・・・」

 しかし、そこまで口に出しただけで、結局は口篭もってしまう。

「なぁに?ターニャ」

「・・・いえ、やっぱり何でもありません」

 そんなターニャを秋吉は優しく促したのだが、結局ターニャははぐらかして何も言わなかった。
 秋吉はターニャの言葉が気になってはいたが、辛そうなターニャの表情を見ていると追求は出来なかった。

<つづく>














  <上からのつづき> 岡村啓太 2003/04/10 14:14:20  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:14:20
<上からのつづき>

「今日はまだ一緒に帰ることは出来そうにありませんから、ここでお別れです」

 代わりにターニャの口から出てきたのは別れの言葉。

「うん。ターニャ、またいつか」

「はい。ダスヴィダーニャ 秋吉」

 ターニャはどうにか笑顔を作りあげると小さく手を振って見送った。

「ダスヴィダーニャ ターニャ」

 秋吉も笑顔を作って手を振り返すと背を向けて歩き出す。
 それでもターニャは秋吉の背中に手を振りつづけている。
 そして秋吉の姿が見えなくなり、ようやくターニャは手を下ろした。
 しかし視線は秋吉が消えた先を見続けている。
 やがてその瞳から一筋の涙がこぼれ落ち。

「ダスヴィダーニャ・・・ダスヴィダーニャ リュビームイ」

 その口から小さく言葉が紡ぎ出された。 


<エピローグへ>














  エピローグ赤いスズランの向こうには 岡村啓太 2003/04/10 14:15:18  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:15:18

エピローグ  赤いスズランの向こうには


 病院を退院した次の日から、また私は工芸館で働き始めました。
 今度は売り子だけではなくて、ちゃんと商品も作るつもりで。
 そして、私は再び夕焼けの赤を使った作品造りにも取り掛かりました。
 もちろんそれは赤いスズランではありません。
 それはベネチアン・グラスやランプなどのごく普通のものです。
 それでも最初に買ってくれた人には思わず握手をしてしまいそうなぐらいうれしかったです。
 でも、やはりあまり売れてくれませんでした。
 それで以前私が作った作品にキャッチコピーを付けてくれた先輩がまた私の作品にキャッチコピーを付けてくれました。
 今度は夕日と恋を絡めた素敵なキャッチコピーです。
 それからは少しずつですが売上も伸びてゆき。
 それに伴って夕焼けの赤を使った作品のレパートリーも増えてゆきました。
 そして
 なんと今では工芸館の人気商品の一つにまでなっています。
 そのため今では私は売り子はせずに、ほとんど工房にこもって働く毎日です。
 そして
 私は今一つの企みを胸に秘めています。
 それは
 もう一度赤いスズランを作り、今度こそ商品化してもらうことです。
 以前の私では店長も認めてはくれませんでしたけど、
 今の私ならばきっと・・・。
 そして
 赤いスズランが日の目を見た時。
 その時こそ、私は昔の私から新しい私になれる。
 父の跡を追うのではない。
 自分の道を作って歩ける。
 そう、私は思うのです。

<END>














  あとがき 岡村啓太 2003/04/10 14:15:53  (修正2回) ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/10 14:15:53 ** この記事は2回修正されてます
あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。
Another Story of Tanyaはこれにて完結です。
ハッピーエンドとは言いがたいラストでしたが、皆さん納得していただけるものとなっておりましたでしょうか?

私は最初に、このお話を書くにあたって3つの決め事をしました。
1つ
どろどろとした恋愛模様にはしないこと。
2つ
秋吉を二股をかけるような軟弱野朗にしないこと。
3つ
ターニャを不幸なままでは終わらせないこと。
です。
これらのどれかが欠けても読者に後味の悪いものを残すと思ったからです。

実はこのため、当初からターニャが振られてしまうことは決定事項でした。

もちろんターニャと秋吉をくっつけることも可能ではありましたが、
葉野香を泣かせてまで秋吉とくっつけても、それでターニャが幸せであるとは思えませんでした。
ゆえにこの案は没です。

ターニャが夕焼けの赤を完成させた時点でめでたしめでたしで終わることももちろん可能でした。
しかし、それではあっさりしすぎた、あまり起伏のない話になってしまいますし、
それは私が描きたかったものとは違うものでしたので、やはり没です。

ゆえに、あえて今回はこのイバラの道を進む事を決意したのです。
しかし、これは予想を越えて遥かにたいへんな道でした。
この企画を始めた事を何度も後悔しました。
はっきり言いますと今の私の実力では高すぎるハードルだったのです。
ですが、今では書いてよかったと、感無量でいっぱいです。


さて、ここで少し本編にも触れたいと思います。

桜町由子さんですが、
ターニャを葉野香と秋吉と出会わす前に誰か大人の女性にターニャを諭させてワンクッションおきたいと思っておりました。
そのため当初は病院関係者の椎名薫さんに出番を頼もうと思っていたのですが、
恋愛関係の相談であれば、由子さんの方が適任ではなかろうかと思い、彼女にお願いしました。
由子さんシーンを書き終えた時は 『由子さん。いてくれて本当にありがとう』 と思ったものです。
それほど彼女は適任でした。

病院の桜の木は完全に私の想像です。
前回、ろっきゃんさんより
『最終話では季節感があふれたエンディングになればすごく素敵だろうなあと思います。』
という感想をいただいてから私の中で桜のシーンが頭に浮かんでいたのでこうなりました。
実際の季節感とあっているのかどうかが分かりませんので間違っていたらごめんなさいです。

ラスト近くのターニャのセリフ
「秋吉さん。もし・・・・・・」
の後に続く言葉は
「葉野香よりも先に私がアナタと出会っていたら・・・」
です。
本編中では話の流れの関係から明かしませんでした。
もしそうなっていた時はどうなっていたかは、皆さん良くご存知のはずですよね。
でもその時は葉野香はどうなっているのでしょうか?
北海軒がつぶれているかどうかは分かりませんが、きっとまだ眼帯はしているのではないでしょうか。


最後に
このお話を書いている最中、たくさんの方々から助言や感想や励ましなどを頂きました。
皆さんのお力添えがなければ、このお話はこういった形のものに仕上がってはいなかったことでしょう。
(きっともっと酷い出来であったに違いありません)

本当に長い間お付き合い下さいまして、ありがとうございました。














  読みました〜&掲載完了〜♪2003/04/15 02:05:34  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
<okxykqpyon> 2003/04/15 02:05:34
読みました〜&掲載完了〜♪

岡村啓太さん、お疲れさまでした〜。
とうとう完結しましたね。

ターニャは、まあ、このお話では予定通りふられてしまった
訳ですけど、けれど、うまく前向きにまとめましたね〜。

エピローグでのターニャの前向きさだけでなく、主人公も
葉野香ちゃんもとても誠実だったから、作品としてとても
綺麗にまとまったと思います。

半年もかかってたんですね〜。
ということは、このファンサイトも、それとともに続いて来た
というわけで、なんとなく感慨深いですね(笑)

今回の作品は、全てSSに掲載しておきました。
また、長い作品になってしまったため、各ページごとに飛べる
ように処置しました。

何はともあれ、お疲れさまでございました。

ゆっくり休んでくださいませ。

ではでは〜(^^)/














  │└掲載ありがとうございます(追加のお願い) 岡村啓太 2003/04/16 16:42:46  (修正2回) ツリーに戻る

Re: 読みました〜&掲載完了〜♪ 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/16 16:42:46 ** この記事は2回修正されてます
掲載ありがとうございます(追加のお願い)

おそらく雄さんには3話あたりでこういう展開なるとバレていたような気がしますが(笑)
どうにかまとまってはくれたようなのでほっとしております。

また別のお話を書く機会があるかどうかは分かりませんが、その時はまたよろしくお願いします。


(追加のお願いです)

今、掲載されたものを読んだのですが、taya10の文で上で掲示した3段目の文が重複して掲載されており、
4段目の文が掲載されていませんでした。
出来れば直してくださるとありがたいです。
お願いします














  素敵なお話ありがとうございました〜 ろっきゃん 2003/04/18 21:10:02  ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
ろっきゃん <fnoukdyhwi> 2003/04/18 21:10:02
素敵なお話ありがとうございました〜

チャットゆうこ部屋管理人のろっきゃんです。
人に元気を与えてくれる由子さんが大好きです。
まさか最終話に登場する(しかもいい役で)
とは感激です。

悪者のいない優しい人ばかりのドラマが大好きです。
葉野香ちゃん、主人公(秋吉)、由子さん、そしてターニャ、
原作よりさらに深く優しくて素敵でした。

彼の名前が、秋吉で、失恋したのが桜の季節というのも
印象深いですね。ターニャには次の幸せが見えているようで
良かったです。
私の中では予想できうる最高のハッピーエンドでした。

岡村啓太様、Another Story of Tanya
堪能させていただきました。
ありがとうございました〜(^^)/














  │└ありがとうございます〜 岡村啓太 2003/04/19 15:41:58  ツリーに戻る

Re: 素敵なお話ありがとうございました〜 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/19 15:41:58
ありがとうございます〜

ハッピーエンドと受け取ってくださってありがとうございます。
結局はターニャの失恋物語になってしまいましたので、皆さんが納得してくださるか不安だったんです。

由子さんはどうでしたか?
ちゃんと彼女らしく書けていたでしょうか?
薫さんの代わりに由子さんを起用したら、ターニャとの絡みが妙にマッチしてくれて、
あとがきにも書きましたが本当に『由子さん。いてくれてありがとう』って感じでしたね。
由子さんは本当に元気をくれるキャラです。

ターニャも葉野香も秋吉も悪者にはしたくなくて、
でも、そうしたらターニャはたくさん傷つける事になってしまって、
だから、少しでもターニャを幸せにしてあげたくって、
だから、がんばってそっちに持っていこうと、由子さんにも手伝ってもらって、
そうして、どうにかこういう結末まで持ってくることが出来ました。
原作よりも素敵と褒めて頂くのは何だか照れますが、うれしいです。
がんばってよかったって思えます。

ろっきゃんさんのアイデアを元に私が思い描いた桜のシーンですけど、
どうやら気に入って頂けたようなのでうれしいです。
実は当初の予定では工芸館の前の運河沿いを歩かせる予定でした。
でも、今ではこちらの方が良かったと思っています。

いつも感想を頂き、最後まで読んでくださってありがとうございました。
また新作を書く機会があったら読んであげてくださいませ。














  お疲れ様でした! 長良川の鮎 2003/04/18 22:49:17  (修正1回) ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
長良川の鮎 <guhftnjywu> 2003/04/18 22:49:17 ** この記事は1回修正されてます
お疲れ様でした!

岡村啓太さん、連載終了お疲れ様でした!
ずいぶん長きに渡っての連載でしたが毎回お話の展開に想像と妄想
膨らませることがとても楽しかったです。
回を重ねるごとに上達というべきか成長みたいなものが感じられ
子供を見る親の気持ちのようでした(笑!。

私の場合、今まで皆様のように素直な感想というより、
駄目出し的なことばかり書いて来たので(汗!、正直な所、
今回はレスをしないことで好評価していることを示そうと
しましたが・・・・、

陽子「言葉にしなければ伝わらないこともあるのよ!」

なのでちょっと(いや、かなり・・汗!)遅くのレスになりました。
感想は一言、

良かったです!

琴梨「あ、あっさりした感想だね・・(汗!」

陽子「ラーメンに対しての好評価には『まったりとした・・』とか
   『こくのある・・』など様々だけれど、本当に美味しい物は
   ただ一言『美味しい!』、これに勝るもの無しよ!!」

琴梨(ラ、ラーメンと小説は同じ扱いですか・・・汗!)

鮎 「これからも頑張ってくださいね!」














  │└お世話になりました 岡村啓太 2003/04/19 15:43:33  ツリーに戻る

Re: お疲れ様でした! 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/19 15:43:33
お世話になりました

この連載中、長良川の鮎さんにはアドバイス等で本当にお世話になりました。
おかげで、1話や2話と4話や5話を比べると、別物のような文章になりました。
(これだとバランス悪いなぁ〜。手直ししたほうがいいかな?)

でも厳しい意見も貰いましたので
「やっぱりおもしろくないのかなぁ」
とか
「やっぱりへたくそで読み辛い?」
とか、悩んだりも実はしてたんですけど、今回

良かったです!

と、言ってもらえましたので、ほっと一安心です。
黙ったままでいられたら、きっと不安なままでしたので、レスが貰えてうれしいです。

これからのことは、今はまだ分かりませんけど。
また機会があれば、辛口な批評でも、一言感想でも構いませんのでしてやってくださいな。

それでは、長い間お付き合いくださいまして、ありがとうございました。














  読みましたよ〜♪(^-^)/ Hit-C★琴護ちゃ! 2003/04/19 02:31:23  (修正2回) ツリーに戻る

Re: やっと完結です 返事を書く ノートメニュー
Hit-C★琴護ちゃ! <onibcfvzym> 2003/04/19 02:31:23 ** この記事は2回修正されてます
読みましたよ〜♪(^-^)/

 ホントはずっと早く読んでいたのですが、公私でぱたぱたとし
ていて書き込みが遅くなってしまいました。(_ _;)

Hit-C「…琴梨ちゃんが出ていないから、感想を言いやすいです
 ねぇ…。」(^^ゞ
陽子「そ〜ゆ〜のを『ワガママ』と言わずして何と言えばいいの
 さね。」(-_-#)
琴梨「何処かの誰かさんがお話を書くと、男の主人公が異性に対
 して、どうしても優柔不断になってしまうんだよね。」(-。-) ボソッ
H「……………。」(;^_^A アセアセ…
陽「好みでない娘には冷たいけど、少しでも気があると甘くなる
 からねぇ、Hit−Cクンって子は。」(_ _;)
H「…ヒトをそこいらの浮気者と一緒にせんで下さい。」(--#)

琴「由子さんを出してきた点を、Hit−Cお兄ちゃんも褒めて
 てたよ。」(*^_^*)
H「…仮に、陽子さんだった日にゃ…。」("";)オドオド…
陽「嗾(けしか)けるに決まってるじゃないか! 指を銜(く
 わ)えて見てればいいってもんじゃないんだよ!」(!o!)
琴「お母さん、それじゃ折角のお話が台無しになっちゃうよ…?」(;¬_¬)オドオド
H「…それじゃ、コメディか、昼のメロドラマになっちゃいます
 ケド…。」(¨;)
陽「札(視聴率)が取れそうかい?」(O_O)
H&琴「…さあ…それは…。」(°°;))。。オロオロッ。。・・((;°°)

 キャラクターの魅力を高める作用を持った、佳作(良い作品)
だと思いますよ。(^^)


【松山から補足】2003/04/20
 コンテストなどでは「佳作」とされると下位に位置している訳
ですが、文章的には「優れたもの」といった意味があります。(^^ゞ














   └感想ありがとうございます〜♪ 岡村啓太 2003/04/19 15:44:40  ツリーに戻る

Re: 読みましたよ〜♪(^-^)/ 返事を書く ノートメニュー
岡村啓太 <vhhyhipvfj> 2003/04/19 15:44:40
感想ありがとうございます〜♪

由子さんのこと褒めて下さってありがとうございます。
自分でも彼女の役どころは気に入っております。

キャラクターの魅力を高める作用を持った、佳作(良い作品)
という評価もうれしいです。

自分では、こんなターニャをいじめているだけのようなハッピーエンドでもないお話は駄作か?
なんて思っておりましたから、佳作でも身に余る評価です。
自分がまだ優作なんて書ける身だなんて思っていませんし。

それにちゃんとキャラ崩れしないで書けていたようですし、
実はこんなターニャや 葉野香は受け入れてもらえるか不安だったんです。

では、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


PS:由子さんの代わりに陽子さんにするとそうなるわけか、なるほどなるほど(笑)。


「北へ。」 EXIT
新規発言を反映させるにはブラウザの更新ボタンを押してください。