セガ北へ。BBS作品。その2


          『もうひとりのターニャ』
  
・・・このお話は、今わたし達が営んでいるこの世界の時間と異なる時
間が支配する『もう一つの地球』での出来事より発足する。

参謀>
て、提督!!こ、このままでは、我々バルチック艦隊の全滅は、最早必
至です!!
せめて提督だけでも脱出を!!

今、日本連合艦隊を撃滅せんが為、遥かロシア・バルチック海よ
り半年の時を掛け出撃した40隻にも及ぶ大艦隊は、悲壮なる最後を迎
えようとしていた。
最早寮艦達の中に無傷な者は、一切なく、既に半数近くが海中へとその
身を沈めていた。

提督>
・・・ありがたい提案ですが、それは、受け入れられません。
わたしは、この艦隊を預かる身です。
そのわたし一人がこの『バルチック艦隊』を・・・そして・・・
この『旗艦スワロフ』を置いてどうして逃げられるのでしょうか?

参謀>
しかし・・・!!
今ここで提督に死なれる訳には、いかないのです!!
次なる闘いの為にも提督を失う訳には!!

参謀は、提督への脱出を促さんが為、最早提督の足元へと膝ま付き、そ
してしがみ付くかの様に哀願した。
だが提督は、瞳を閉じ、その提案を拒もうとした。
その時。

『ズドォ〜ンン!!!!』

参謀>
ど、どうしたぁ!!?

見張員>
せ、戦艦オリヨールが・・・ば、爆沈しました!!

参謀>
な、何ぃ!!?

戦艦オリヨール・・・
日本連合艦隊を叩かんが為に、旗艦スワロフと共に鬼神のごとく砲撃を
続けていたその戦艦は、辺りに目映い閃光を放ちながら、一瞬でその姿
を消した。
連合艦隊旗艦『三笠』以下、主力戦艦4隻による集中砲火により弾薬庫
を打ち抜かれ、大爆発を起こしたのだった。

鮎参謀>
敵戦艦1隻撃沈!!これで敵バルチック艦隊の主力戦艦は、旗艦スワロ
フのみとなりました!!
やりましたね、春野提督。
やはりあの『Uターン戦法』が大きく相手の動きを取り乱せました!!

春野提督>
バルチック艦隊・・・
わたし達は、彼らの半分以下の戦力しかなかった・・・
故に・・・イチかバチかのこの戦法に掛けるしかなかったの。
でも、うまく言ったわ。
これも普段の猛訓練のお蔭ね・・・

日本連合艦隊が、この海戦の為に用意出来た艦数は、敵の半数程度でし
かなかった。
これを補う為にも日夜、血の滲むような特訓を行ってきた。
そうして身に付けた神業とも言える操艦技術により、敵艦へと真正面よ
り突撃、敵の艦隊運動を乱した際に突如180度の旋回運動を取り、敵
艦隊と平行航行、即座に砲撃戦を行うものだった。
バルチック艦隊は、日本艦隊の動きへ即座に対応出来ず、一方的に攻撃
を受けたのだ。

鮎参謀>
この戦、最早勝ったも同然!!
敵へ降伏勧告を出しましょう。

春野提督>
・・・!!?
待って!!敵の旗艦の動きが変だわ!!ま、まさか!!?

 

参謀>
な、なんと!!?
今なんと申されましたか!!?提督!!?

提督>
この戦・・・最早わたし達の負けです。
既に寮艦達には、この海域よりの撤退命令を出しました。
そしてわたしには・・・提督として、我がバルチック艦隊を守る義務が
あります。
それは、旗艦であるスワロフの義務でもあります。
・・・これより旗艦スワロフは、敵艦隊へと単身突撃を行います!!
1隻でも多くの寮艦をここより脱出させる為に・・・
皆には、わたしと共に英霊となって下さい。
・・・そして・・・ごめんなさい・・・

参謀>
・・・何をおっしゃいます、ターニャ提督!!
我ら、ターニャ提督に預けたこの命!!見事仲間の為の盾として使いま
しょうぞ!!
我ら、最早ターニャ提督とは、一蓮托生です!!

その言葉を聞いたターニャ提督は、明かりも半ば落ち掛けた戦闘艦橋室
内をゆっくりと見渡した。
目をこらさねば顔の表情も解らぬその中でありながら、ターニャは、今
はっきりと確認した。
今だ衰える事のない、乗組員達のランランと燃え輝くその瞳を。

ターニャ提督。
・・・皆、ありがとう・・・
これより最後の命令を下す!!
旗艦スワロフは、これより、大日本連合艦隊への単身突撃を敢行する。
目標!!敵旗艦『三笠』!!
・・・突撃いいぃぃぃ〜〜〜!!!!

鮎参謀>
う、うわああぁぁぁ〜!!?
奴めっ、突っ込んで来る気か!!?

春野提督>
全艦隊へ伝達!!こちらへ突進して来る敵旗艦スワロフへ集中砲撃を行
い、これを撃破撃滅せよ!!
・・・砲撃・・・開始いいぃぃぃ〜〜!!!!

春野提督より発令した指示は、恐ろしい程熟練した乗組員達により、瞬
時に実行された。
全艦隊の攻撃可能な砲門全てが一斉に鎌首を持ち上げ、まるで意志を持
つ生き物の様に、狙いをスワロフへと定めた。
そして・・・

『ズドォ〜ン!!ズドォ〜ン!!ズドォ〜ン!!』

スワロフ乗組員達>
うわあああぁぁぁぁぁ〜〜!!!!

・・・『それ』は最早戦いではなく、一方的な殺戮ショーへと成り下が
っていた。
既にろくな反撃力を失っていたスワロフは、まるで射撃訓練用の標的艦
の様にその身を晒し続けた。だが・・・
初航海時の栄光ある面影など既になく、鉄屑同然となりながらも突進を
止める事は、なかった。
正しく真一文字となって狙うべき相手、三笠へと突き進む。
ターニャ提督は、猛烈な砲火の中、一歩も姿勢を崩す事なく、標的三笠
を凝視し続けた。
もしかしたら・・・旗艦スワロフには、今、ターニャ提督の魂が乗り移
っているのかもしれない。

 

鮎参謀>
駄目だ!!奴め、狂ってる!!このままでは!!

春野提督>
・・・全艦、オモカジ〜!!全力回避運動!!

しかし、その指示は、遅過ぎた。
最早、確実なる勝利から来る油断だったのか、それとも敵を撃滅出来る
と思った自惚れだったのか・・・それは、解らない。
しかし今確実に解る事、それは、スワロフの突進を止められなかった事
だった。
今正にスワロフは、三笠の船体へと確実に食い込もうとしていた。

ターニャ提督>
・・・ツヴェト・ザカータ・・・夕焼けの赤・・・

ターニャは、自分の首から胸へと垂れ下がるペンダントを手に取り見詰
め、そっと呟いた。
そのペンダントは、歳老いた父より受け取ったものだった。

父>
ターニャ、これを・・・

ターニャ>
お父さん、これは?

父>
それは、父さんが生涯を掛けて完成させたツヴェト・ザカータ、夕焼の
赤をガラスで再現したものだよ。
これからお前は、女の身でありながら戦いに赴かなくてはいけない。
だから・・・せめてわたしの思いを込めたそのペンダントをお守りとし
て持って行きなさい。
父さんは、そのペンダントからお前を何時も見守っているよ。
そして・・・生きて返って来い。解ったな?ターニャ・・・

歳老い、シワの増えたその顔にターニャの父は、満面の笑みを輝かせ、我が娘を何時までも見送っていた。
娘は、見る事が出来たのだろうか?
父の顔に深く彫られたシワに流れていた一筋の涙を。

ターニャ提督>
お父・・・さん・・・

そして・・・

ターニャ提督>
お父さああああぁぁぁぁぁ〜〜んん!!!!
                ・
               
 ・
                
蟹缶輸送船船長>
・・・おい・・・おい!!お嬢ちゃん!!

ターニャ>
・・・あれ?ここは・・・何処?三笠は・・・?

蟹缶輸送船船長>
あ〜ん?何訳解らねぇ〜事言ってやがる。
ははぁ〜ん、さては、寝ぼけてやがるな?
ま、お嬢ちゃんみたいな子がこんなボロ船で長旅じゃあ寝ぼけてもしゃ
あ〜ないわな。
まぁいいか。
それよりお嬢ちゃん、ほれこれ。

ターニャ>
・・・え?なんですか?これは?

蟹缶輸送船船長>
何はねぇ〜たろ?
お前の為に用意してやったパスポートだよ。まぁ、偽造だけどな。

ターニャ>
え・・・?でもそれは、犯罪・・・

蟹缶輸送船船長>
・・・あのなぁ〜お嬢ちゃん、今アンタがここにいる事自体犯罪なんだ
ぜ?(頭を掻きながらそう言う船長)

ターニャ>
あ・・・ごめん・・・なさい。

 

蟹缶輸送船船長>
はっはっは〜!!まぁいいけどな。
それとこれ!!お嬢ちゃんが言っていた、ガラスなんたらってとこまで
の地図だ。
たまたま船員の中にそこへ行った事ある奴がいてな。覚えてやがったん
だよ、道のりを。
それと・・・これは、俺からの選別だ。
日本の金だ。まぁ少ねぇけど取っときな!!

ターニャ>
ありがとうございます・・・
でも・・・でもどうしてこんなに親切にしてくれるんですか?

蟹缶輸送船船長>
さてなぁ〜・・・まぁ強いて言えばお嬢ちゃんの『夢』だな。

ターニャ>
え・・・?わたしの夢・・・ですか?

蟹缶輸送船船長>
おう。夢よ。
まぁ、こまかいこたぁ〜あれこれお嬢ちゃんから聞かなかったし聞く気
もなかったから知らねぇけどな、お嬢ちゃん、お父さんの意志を受け継
ぎたくてわざわざ日本まで行きてぇ〜んだろ?
まぁ、他の奴らは、どう言うか知らねぇが、おれは、お嬢ちゃんのそん
な一途なとこが気に入ったって訳よ。
だから気にすんな!!はっはっはぁ〜!!

ターニャ>
ありがとうございます・・・
わたし・・・わたし!!このご恩は、何時かきっと返しますね。

蟹缶輸送船船長>
おう!!出世払いでいいぜ!!?

ターニャ>
クスクス・・・

蟹缶輸送船船長>
はっはっはぁ〜!!

船員>
船長〜!!港に入りますぜぇ〜!!

蟹缶輸送船船長>
おうっ!!解った!!今そっちへ行く!!
お嬢ちゃん、俺がしてやれるのは、ここまでだ。
あとは、自分で掴み取るんだ。夢をなっ!!

ターニャ>
・・・はいっ!!
               ・
               ・
               ・
今わたしは、父のいた日本、小樽にいます。
わたしの夢を叶える為に。
・・・夢。
さっきわたしが見たものは、なんだったんだろう?
今でもわたしの心に鮮明に残っている・・・
もしかしたら・・・別の世界にいるもう一人のわたしの気持ち?
フフフ・・・まさかですよね?
・・・さぁ!!行きますよ!!ターニャ!!
お父さん、わたしきっと夢を叶えてみせます。
お父さんと夕日の中で誓った夢を!!

・・・少女は、駆け出していた。
            夢と希望をその幼き胸へと抱いて・・・

 


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