スパイ大作戦2

(1)形見

ツヴェト・ダガート・・・

米ソ冷戦時代、核兵器の開発競争は激しさを増していた。両国ともに核の威力と量は増していった。
その頃であった。たった一発で世界の4分の1を破壊することができる、究極の核兵器をソ連が開発しているとの噂
が流れた。

もし核戦争になり、ソ連が敗北する時。その究極の核兵器を爆発させる。
その兵器こそ、人類の破滅。世界に黄昏れをもたらす、赤い夕日の色・・ツヴェト・ダガートのコードネームとして
呼ばれていた。
映画『博士の異常な愛情』も、この噂が元になっていると言われている。

しかし、それはあくまでも噂であった。冷戦時代も末期になると、核兵器削減条約が米ソ両国で取り決められ、その
後もソ連経済の破綻、ソ連崩壊、と続き、核兵器自体もかつての冷戦の遺物となり、ツヴェト・ダガートの噂も、ソ
連脅威論から産まれたタダのホラ話だということになり、事の真偽は、ソ連崩壊後の混乱もあり、しだいに忘れ去ら
れていった。

だが・・

薫「ターニャ・リビンスキーの父は、核物理学者で4年前に死亡。ちょうどソ連崩壊時の混乱の最中ね。核物理学者
でさえ給料を支払うことができなくなり、核兵器の開発技術や人材が他国に流失・・してしまう事を恐れて・・」

音琴「消された、と? それでターニャは何か、核兵器の開発について携わっていたんですか?」

薫「まさか・・まだ子供よ。だけど、彼女が自分でも知らずに核兵器開発技術を持っている可能性はあるわ」

音琴「父親の形見のガラスのペンダント。しかしそれなら、もう他国のスパイが奪うなりしていてもおかしくないじ
ゃないですか」

・・ロシアでガラス職人をしていた父は、この製法を
誰にも伝えないまま、他界してしまいました。
だから私、どうしても夕焼けの赤を作りたいんです。・・

彼女の目に、ほんの一瞬だが涙が浮かんだような気がした。
あの涙の本当の意味は・・


薫「スパイ同士が牽制しあって手出しできないでいるのかも。そして行方不明のスパイは手出しをして、消された」

音琴「だったら、やっぱりツヴェト・ダガートの秘密も、それがあったとしての話ですが、それはもう誰かの手に渡
っていると考えてもいいんじゃないのですか?」

薫「ツヴェト・ダガート、それが本当かどうか確かめるのも、あなたの仕事よ。《ピ・ピ・ピ・ピ・》時間ね、それ
じゃ音琴君」


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