「よし!!落ち着いた」
「そうかぁ?」
気合を入れてそう言ったら、何故か疑わしそうに見られた。
「で・・・やっぱりこれって・・・ゆ、指輪?」
あたしはドキドキする心臓を抱えながらも今度はちゃんと聞けた。
「うん。そんな高いモノが買えなくって安物なんだけど・・・。悪いな」
「ううん。そんなこと・・・」
(や、や、やっぱり指輪だよぉ!!こ、こ、これってどういう意味?や、やっぱりそういうこと?)
あたしは頭の中でパニックを起こしながらも、もう1度フタを開けてみた。
そこにはやはり銀色に輝く指輪が鎮座している。
「あ、ありがとう・・・。うれしいよ、ホントに・・・な、何て言っていいのか分からなくなるぐらい・・・」
そして何とかお礼を言葉らしきものを口からつむぎ出した。
「そっか。よかったぁ・・・。気に入らなかったらどうしようかって思ってたんだ」
見ると耕治さんは安堵と歓喜の混じった表情を浮かべている。
「耕治さんがくれるものなら、何だってうれしいよ。それが・・・まさか指輪だなんて・・・」
あたしは指輪を摘むと箱から取り出した。
「で、でもこれってどういう意味?や、やっぱりそういう意味にとっていいのかな?」
あたしは真っ赤になりながらも勇気を振り絞って一番肝心な、そして一番聞きたかった質問をした。
「えっ?・・・あっ!い、いや、その・・・。べ、べつにそこまで深い意味はないんだよ。ホント軽く受け取ってよ」
すると、最初はあたしが何を言っているか分からなかったようだけど、
すぐに何の事だか分かったらしく、慌てて否定してきた。
「そっか・・・」
あたしはそれを聞くと指輪に目を落とした。
たしかに、プレゼントされる指輪がいつもそういう意味のモノって訳じゃないよね。
少しホッとしたけど・・・同時に残念な気持ちもあった。
「その時の指輪はもっと高いのにするからさ・・・」
そんなあたしの耳に耕治さんに呟きが飛び込んできた。
「えっ!?」
慌てて顔を上げて見ると、耕治さんは赤い顔をしながらそっぽを向いていた。
そんな照れくさそうな態度でもうれしくて・・・胸に熱いものが込み上げてきた。
「ありがとう」
でもそれしか言えなくて。
涙がこぼれないように精一杯我慢して、
そして何より、うれしかった。
「そ、そんなことより着けてみてくれないか。それとも僕が着けてあげようか?」
あたしは耕治さんに指輪をはめてもらっている自分の姿を想像してみた。
ボッ
と、顔から火がでそうなほど恥ずかしい光景だった。
「い、いいよ。自分で着けるから」
あたしは指輪を右手に持つと左手の指に近づけていった。
緊張のためか少し手が震える。
そして何故か指輪は薬指に向かおうとしていた。
(ちょっと待て!!そこは違うだろ!!)
自分で自分につっこみを入れながら軌道修正をして中指に指輪を通した。
すると、ぴったりとはまった。
「あ、ぴったりだ・・・」
手をかざして指輪を見てみた。
指にはまっているのを見ているだけでうれしくなってくる。
「ふぅ・・・よかったぁ・・・。サイズが間違ってたら、どうしようかとドキドキしてたんだ・・・」
見ると、耕治さんが大きく安堵の溜息をついていた。
「大丈夫だよ、ぴったりだからさ。でもよくあたしの指のサイズが分かったね?」
「あっ、それは、まぁ・・・企業秘密ってやつで・・・」
何時計ったのかは非常に気になったけど、聞かないでおいてあげた。
「何か・・・お礼しなきゃな・・・」
「そんな、お礼なんていいよ。誕生日プレゼントなんだから・・・」
あたしがそう言うと耕治さんは照れくさそうに断ってきた。
けれどもそれではあたしの気はおさまらない。
でも凝ったモノだと受け取ってはくれないだろうし・・・。
「う〜ん・・・。そうだ!今日の夕飯はあたしが作ってあげるよ。それならいいだろ」
「うん。それなら大歓迎」
「じゃ、さっそく買い物行こ。どうせ冷蔵庫には何にも入ってないんだろ」
「確かに何も入ってないけど・・・。でもケーキ食べてからにしないか?そんなに急ぐ事でもないだろ」
「そうだね・・・」
あたしは気持ちが早っていたのか、ケーキのことをすっかり忘れていた。
あたしたちはケーキを食べ終えてから少し談笑した後、近くのスーパーまで買い物に出た。
あたしが食材を選んでいる間、耕治さんはカートを押してあたしの後をついて来ている。
そしてふと思った。
何だかこうしているとまるで夫婦のようだ・・・。
(って、何考えてるんだよ、あたしは)
あたしは今考えた事を振り払いながらネギをカゴの中に放り込んだ。
「葉野香」
すると耕治さんが話し掛けてきた。
「何?」
「こうしてると・・・なんだか夫婦みたいだな」
(!!)
なんと耕治も同じことを考えていた。
そのことはとってもうれしかったのだけれど・・・。
「バカ!何言ってるんだよ!ほら、今度はあっちへ行くよ」
あたしは照れくさくて、ぶっきらぼうにそう言ってしまった。
それに顔も赤くなっているだろうから見られたくなかったし。
だけど、なかなか素直になれない自分がちょっと嫌だった。
スーパーからの帰り道、あたしたちはそれぞれ片手に荷物を持ちながら並んで歩いていた。
なんとなく耕治さんの表情が暗いように思える。
さっき邪険にしてしまったからだろうか。
指輪をしている左手がなんだか冷たく感じる。
見ると耕治さんの右手が開いている。
普段なら恥ずかしくてこんなことは絶対にしないんだけど。
あたしは耕治さんの右手を握った。
「葉野香!?」
「なんだよ・・・」
あたしは赤くなっているだろう顔を微妙にそらしながら、やはりぶっきらぼうに答えた。
「・・・ううん。なんでもないよ」
そう言うと耕治さんはあたしの手を少しだけ強く握り返してきた。
そしてあたしたちは手を繋いだまま部屋まで帰った。
ぐつぐつぐつ
今、あたしたちの前にはよく煮えた鍋が1つ置かれている。
「なぁ、葉野香。何でこの時期に鍋なんだ?」
「えっ!?水炊き嫌いだった?」
「いや、嫌いじゃないけど・・・」
「じゃあいいだろ。水炊きは安くて早くてヘルシーなんだから」
「まあな・・・。じゃ、いただきます」
「いただきます」
こうして食事を始めて少しすると、
「葉野香って料理うまいな、エプロンも似合ってるし」
突然こんなことを言われた。
「えっ!?」
ちなみに今のあたしの格好は髪を邪魔にならないようにゴムで縛って後ろで一本にしてエプロンをしている。
「エ、エプロンと料理は関係ないだろ」
「そうでもないと思うぞ、やっぱり料理のうまい人はエプロンが似合ってるぞ」
「そ、そうか・・・」
こんな風に鍋を挟みながらのたわいのない雑談。
湯気の向こうでは耕治さんがうまいと言いながら笑顔であたしの作ったごはんを食べてくれている。
それを見ていると何か胸にぐっとくるものがある。
まるで一緒に暮らしているんじゃないかと錯覚しそうだ。
こんな日常がずっと続けばいいのに・・・。
「帰りたくないな・・・」
ふと、あたしの口からこんな言葉がこぼれた。
「・・・だったら、泊まっていくか?」
「えっ!?」
その言葉に我に返ったあたしは耕治さんを見た。
すると耕治さんは恥ずかしそうにあたしから目をそらした。
そこであたしは自分が何を言ったのか理解した。
(えぇーー!!と、泊まるって・・・。え、えっ、そんな、ホントに、そんな・・・)
あたしがパニックを起こして黙っていると、耕治さんは不安そうな目であたしを見てきた。
ぐつぐつぐつ
部屋には鍋に煮える音だけが響き、嫌な雰囲気が漂い出した。
(ま、まずい・・・。な、何か言わないと・・・)
そんな雰囲気に堪えられなくなったあたしは
「うん・・・」
と、一言だけ言って頷いた。
しかしその後
(何で頷いてるんだ、あたしぁーー!!!)
と、心の中で頭を抱えながら絶叫していた。
初めてのプレゼント そして初めての・・・ 続きへ→
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