エピローグ  赤いスズランの向こうには


 病院を退院した次の日から、また私は工芸館で働き始めました。
 今度は売り子だけではなくて、ちゃんと商品も作るつもりで。
 そして、私は再び夕焼けの赤を使った作品造りにも取り掛かりました。
 もちろんそれは赤いスズランではありません。
 それはベネチアン・グラスやランプなどのごく普通のものです。
 それでも最初に買ってくれた人には思わず握手をしてしまいそうなぐらいうれしかったです。
 でも、やはりあまり売れてくれませんでした。
 それで以前私が作った作品にキャッチコピーを付けてくれた先輩がまた私の作品にキャッチコピーを付けてくれました。
 今度は夕日と恋を絡めた素敵なキャッチコピーです。
 それからは少しずつですが売上も伸びてゆき。
 それに伴って夕焼けの赤を使った作品のレパートリーも増えてゆきました。
 そして
 なんと今では工芸館の人気商品の一つにまでなっています。
 そのため今では私は売り子はせずに、ほとんど工房にこもって働く毎日です。
 そして
 私は今一つの企みを胸に秘めています。
 それは
 もう一度赤いスズランを作り、今度こそ商品化してもらうことです。
 以前の私では店長も認めてはくれませんでしたけど、
 今の私ならばきっと・・・。
 そして
 赤いスズランが日の目を見た時。
 その時こそ、私は昔の私から新しい私になれる。
 父の跡を追うのではない。
 自分の道を作って歩ける。
 そう、私は思うのです。




<END>




あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。
Another Story of Tanyaはこれにて完結です。
ハッピーエンドとは言いがたいラストでしたが、皆さん納得していただけるものとなっておりましたでしょうか?

私は最初に、このお話を書くにあたって3つの決め事をしました。
1つ
どろどろとした恋愛模様にはしないこと。
2つ
秋吉を二股をかけるような軟弱野朗にしないこと。
3つ
ターニャを不幸なままでは終わらせないこと。
です。
これらのどれかが欠けても読者に後味の悪いものを残すと思ったからです。

実はこのため、当初からターニャが振られてしまうことは決定事項でした。

もちろんターニャと秋吉をくっつけることも可能ではありましたが、
葉野香を泣かせてまで秋吉とくっつけても、それでターニャが幸せであるとは思えませんでした。
ゆえにこの案は没です。

ターニャが夕焼けの赤を完成させた時点でめでたしめでたしで終わることももちろん可能でした。
しかし、それではあっさりしすぎた、あまり起伏のない話になってしまいますし、
それは私が描きたかったものとは違うものでしたので、やはり没です。

ゆえに、あえて今回はこのイバラの道を進む事を決意したのです。
しかし、これは予想を越えて遥かにたいへんな道でした。
この企画を始めた事を何度も後悔しました。
はっきり言いますと今の私の実力では高すぎるハードルだったのです。
ですが、今では書いてよかったと、感無量でいっぱいです。


さて、ここで少し本編にも触れたいと思います。

桜町由子さんですが、
ターニャを葉野香と秋吉と出会わす前に誰か大人の女性にターニャを諭させてワンクッションおきたいと思っておりました。
そのため当初は病院関係者の椎名薫さんに出番を頼もうと思っていたのですが、
恋愛関係の相談であれば、由子さんの方が適任ではなかろうかと思い、彼女にお願いしました。
由子さんシーンを書き終えた時は 『由子さん。いてくれて本当にありがとう』 と思ったものです。
それほど彼女は適任でした。

病院の桜の木は完全に私の想像です。
前回、ろっきゃんさんより
『最終話では季節感があふれたエンディングになればすごく素敵だろうなあと思います。』
という感想をいただいてから私の中で桜のシーンが頭に浮かんでいたのでこうなりました。
実際の季節感とあっているのかどうかが分かりませんので間違っていたらごめんなさいです。

ラスト近くのターニャのセリフ
「秋吉さん。もし・・・・・・」
の後に続く言葉は
「葉野香よりも先に私がアナタと出会っていたら・・・」
です。
本編中では話の流れの関係から明かしませんでした。
もしそうなっていた時はどうなっていたかは、皆さん良くご存知のはずですよね。
でもその時は葉野香はどうなっているのでしょうか?
北海軒がつぶれているかどうかは分かりませんが、きっとまだ眼帯はしているのではないでしょうか。


最後に
このお話を書いている最中、たくさんの方々から助言や感想や励ましなどを頂きました。
皆さんのお力添えがなければ、このお話はこういった形のものに仕上がってはいなかったことでしょう。
(きっともっと酷い出来であったに違いありません)

本当に長い間お付き合い下さいまして、ありがとうございました。


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