須貝ビルに着いた3人はまずUFOキャッチャーの前に陣取った。
「あたしはアレがいいな」
葉野香はケースの中のぬいぐるみを指差すと、秋吉の背中を押して台の前に立たせる。
「えっ?僕が取るの?」
「そうだよ。あたしこれ苦手だし。耕治さんの方がうまいじゃない」
「しょうがないなぁ・・・。ターニャはどれがいい?」
「えっ?私もですか?」
「うん。どれ?」
「あの、いいんですか?えっと、それじゃあ・・・その・・・あの天使を」
「分かった」
秋吉は2人の期待を背に受けながら、500円を投入すると慎重にクレーンを動かし始めた。
ウィーン
そしてその結果
「ありがとうございます、秋吉さん」
ターニャにだけぬいぐるみが手渡された。
「どうしてあたしのは取れないかなぁ〜」
「しょうがないだろ。葉野香のは難しい所にあったんだから」
「あの・・・2人とも喧嘩しないでください」
ターニャは険悪になりそうな2人を前にオロオロしだす。
「えっ?ああ、べつに喧嘩なんかしてないよ。ちょっと文句言ってやっただけだから」
「そうだよ。ただ葉野香がわがまま言ってただけだよ」
しかしターニャの心配をよそに、2人はケロリとした顔で笑っている。
「べつにわがままなんて言ってないだろ」
「じゃあ、ターニャだけ貰えていたから、うらやましかったんだな」
「それも違う!」
と、言いつつも葉野香の顔は少しだけ赤くなっていた。
そんな2人のやり取りをターニャは心穏やかには見ていられなかった。
一見言い争っているようなやり取りなのに、葉野香に向ける秋吉の目がとても優しい事に気づいてしまったから。
そんな眼差しをターニャと秋吉が2人っきりでいた時には見た事がなかったから。
胸の奥がきゅっと痛くなる。
その痛みに耐えるためか、ターニャは無意識のうちに秋吉から貰ったぬいぐるみを胸に押し当てていた。
次に3人がやって来たのはクイズゲーム。
「じゃ、負けた奴がみんなにジュースおごるんだぞ」
と言う葉野香のセリフからゲームが始まり。
そして
「悪いな葉野香。おごってもらっちゃって」
「あの、はやか。ごちそうになりますね」
「ああ、存分に飲んでくれ!!」
という結果となった。
次にやって来たのはシューティングゲームの台。
こういうのは苦手と言うターニャは後ろで見ており、葉野香と秋吉が台に座る。
そして2Pでプレイしたのだが、
ズガーン
「あの・・・。もう、終わりですか?」
「・・・なぁ、これ難しすぎない?」
「そうだな。次行くか」
その後3人はレースゲーム(意外にターニャが喜んだ)や格闘ゲーム(葉野香が熱中した)等を堪能した。
「う〜ん・・・、ゲームセンターでこんなに遊んだのは久しぶりだよ」
ゲームセンターから出てきた葉野香は身体をほぐすためか、腕を上に伸ばしながら背を反らした。
「次はカラオケですね」
「そうだね。あっ、その前に3人でプリクラ取らないか?」
秋吉はゲームセンターの脇に置いてあるプリクラを指差す。
「あたしはあんまりこういうのは好きじゃないんだけど」
「私もあまり」
「まぁまぁ、今日の記念って事でいいじゃないか」
「ん・・・そうだね。じゃ、ターニャいこ」
葉野香はターニャの手を取って引っ張って行くと、プリクラの前に立たせた。
「えっ!私が真ん中なんですか?」
「そ、今日はターニャが主役なんだから真ん中」
「フレームはこれでいい?」
「あっ、はい。いいです」
と、答えるターニャだが、前しか見ていない。
「じゃ、一枚目いくよ」
「はい!」
ターニャは背筋を伸ばして、その瞬間に備える。
パシャ
「ターニャ、表情が堅いよ。笑って笑って」
葉野香はターニャをリラックスさせようと、ターニャの後ろに立って両肩に手を置いた。
「あっ、はい。でもこういうのは慣れていなくて・・・」
「じゃ、2枚目いくぞ」
「は、はい!」
そう言われた瞬間、またターニャの背筋が伸びる。
パシャ
「う〜ん。まだ堅いなぁ〜」
「すみません。なんだか緊張してしまって」
「じゃ、こちょこちょこちょ」
「あははは。は、はやか。や、やめて」
パシャ
「ひどいです、はやか・・・」
プリクラを撮り終えた後、ターニャはすねたような顔を葉野香に向ける。
しかし、葉野香の方はちっとも悪びれた様子もなく笑っている。
「あはは、ごめん、ごめん。でもいい写真になったじゃないか」
「恥ずかしいです。こんなの・・・」
ターニャが手にあるプリクラには目を向けると、そこには
身をよじって笑っているターニャと、
ターニャを後ろからくすぐっている葉野香と、
そんな2人を横で笑って見ている秋吉が写っている。
「そんなことないって。ねぇ、耕治さんもそう思うだろ」
「うんうん。いい出来だよ、これは」
「もう、秋吉さんまで・・・」
秋吉にまで笑われながらそう言われ、ターニャの顔は恥ずかしさで真っ赤になってゆく。
「あはは。じゃ、カラオケに行こうか」
「はい」
ターニャは2人の後について行きながら、プリクラを大事そうにバックにしまった。
「じゃ、まず耕治さんから」
個室に入り飲み物を頼むと、葉野香が秋吉にマイクを差し出してくる。
「ん、僕から?じゃあ、まずこの曲から」
秋吉は手早くリモコンを操作するとマイクを握った。
しばらくすると室内にイントロが流れ出す。
「・・・やるせない気持ちで 電話を切って ♪・・・・・・・」
・
・
・
「ひこうき雲・・・♪」
ダララララララララララ
曲が終わると同時にドラムロールが鳴り出し、モニターの上の電光板が点滅し、
ダン チャチャチャチャー
【81】
点数が表示された。
「わっ!すごいです。秋吉さん、歌が上手なんですね」
「この曲は何度も練習したからね。この曲だけは80点以上だせるよ」
ターニャから尊敬のまなざしを向けられて、秋吉は少し照れくさそうにしながらも誇らしげな顔だ。
「見ててよ、ターニャ。あんな点すぐに抜くから」
そんな秋吉に対抗するかのごとく葉野香がマイクを握る。
「はい。がんばってください、はやか」
そして室内にイントロが流れ始める。
「・・・寂しそう? 冗談 あんたこそ ものほしそうだよ〜♪・・・・・・」
・
・
・
「雨の24時〜♪・・・・・・」
ダララララララララララ ダン チャチャチャチャー
【73】
「え〜、なんで〜」
葉野香は表示された点数にあきらかに不満そうだ。
「ま、あの歌い方ならこんなもんだろ」
「この歌はこういう歌い方でいいんだよ!!」
葉野香はストローで暢気に烏龍茶をすすっている秋吉を睨み付ける。
「あの、はやかの歌、とってもよかったですよ」
「ほらぁ、やっぱり分かる人には分かるんだよ」
「ターニャ。無理にお世辞なんか言う必要はないんだぞ」
「ターニャ。こんな奴は言う事なんて聞かなくていいよ。ほら、次はターニャの番だよ」
「あ、はい・・・」
ターニャは少し緊張した面持ちでマイクを受け取ると、イントロが流れ出した。
「・・・一日が終わると はじまるユウウツ・・・」
・
・
・
「タイクツな自分に気付いてしまった・・・・・・」
ダララララララララララ ダン チャチャチャチャー
【78】
「ふぅ・・・やっぱり、歌は難しいですね」
歌い終わって点数を見たターニャは恥ずかしそうに居住まいを正した。
「そんなことないよ!!ターニャの歌すっごく良かったよー」
「うん、ホント。すごくうまいよ」
「えっ!?そんな・・・」
2人から誉められて、ターニャはますます恥ずかしそうにモジモジとしだす。
「ターニャって声がキレイだし、なんだか優しい感じがするし、ホントうらやましいよ」
「あの・・・そんな、あまり誉めないで下さい」
「あはは、ゴメンね。でも上手だって思ったのはホントだから」
「は、はい・・・。ありがとうございます」
秋吉にそう言われ、ターニャは顔だけでなく、耳まで真っ赤にしていた。
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