『友達』


          『3』

葉野香>
なんだか今日は、悪かったね・・・あたしにずっと付き合わせちゃって
さ。
しかも最後は、あんな落ちだしさ。
でもお蔭で随分スッキリしたよ。
本当ありがとな、ターニャ。

ターニャ>
いいえ・・・わたしのほうこそお店手伝ってもらって・・・はやかの心
の内を少しでも知る事が出来て、とっても嬉しいんです・・・

・・・もう日は、とっくに落ちていて辺りは、真っ暗になっていた。
ふたりは、公園から駅・・・小樽駅目指して肩を並べて歩いている。
何気ないお喋りをしながら。
雪を踏み締める度に足元から『キュッキュッ』と言う楽しげなリズムが
ふたりの耳元へと伝わっていく。
時折、車のヘッドライトに照らされながら、目的地へと歩みを進めるふ
たり。
さっきまで晴れていたのだが少しずつ雪達が舞い降り始めているのだろ
うか。
彼女達を照らしていたライトによって、雪達もキラキラと映し出されて
いた。
やがて、町並みの明るいライトショーに照らされた小樽駅へと辿り着く。

葉野香>
ふぅ〜・・・着いちまったな。
喋りながらだと、直ぐ着いちまうな・・・

ターニャ>
本当に・・・そうですね。

なんとなくふたりは、名残惜しそうに言葉を繰り出す。
この後、ターニャは、会社の寮へと。そして葉野香は、札幌の家・・・
兄貴のいる家へと帰らなくてはいけない。
どんなに嫌でも葉野香に取って帰れる場所は、兄貴の待つあの家・・・
北海軒しかないのだ。
その事自身は、葉野香自身、嫌と言う程解っている。

葉野香>
はぁ〜・・・
まぁ、しょうがないよね。いくら喚いた所であたしが帰れる場所は、あ
そこしかないんだしさ。
ターニャのお蔭で気持ちも落ち着いたし・・・帰るとしますか。
我が家へ。
家に着いたら兄貴の顔でも拝んでやるか。さてさて、今日は、どんな顔
してのお出迎えやら・・・フフフ。

そんな事を考えると、ついつい笑いが洩れる。
兄貴の取る行動が、手に取るように解るからだ。


ターニャ>
???
どうかしたのですか?はやか?

葉野香の顔を不思議そうに覗くターニャ。

葉野香>
ん〜?いや、別になんでもないよ。
それよりも、もうお別れだね・・・あたしはともかく、ターニャは、会
社の寮だから門限もあるし・・・こればっかりは、仕方ないけどね。

ターニャ>
ん〜・・・・・・

葉野香のその台詞を聞いた途端、左手に肘を当てがい、そして右手を自
分の頬に当てて、考え込む表情を取るターニャ。
なんだか、結構真剣な面持ちだ。

葉野香>
あれ?ターニャ?

今度は、葉野香がターニャの顔を見返している。
すると、ターニャは、にっこりとして、

ターニャ>
はやか、日本には『嘘も方便』と言う諺があります。

葉野香>
う、うん、あるね。

突然、ターニャの口からそんな台詞が出て来て少し面食らっている葉野
香。
しかしターニャは、真面目な顔つきで言葉を続ける。

ターニャ>
わたしは、今日程その諺を素晴らしいと思った事は、ありません。
はやかには、今ここで大怪我をしてもらいます。

葉野香>
は、はぁっ!!?

そんなターニャの突拍子のない台詞に呆気に取られている葉野香。
それを見たターニャは、クスクスと笑っている。

ターニャ>
ふふふ・・・別に本当にはやかに怪我をしてもらう訳では、ないですよ?
だからこそ『嘘も方便』なのです。
つまり、今、友達が怪我をしてしまって、一人で家まで帰るのが大変そ
うなので、家まで送って来たいので、どうか門限に遅れる事を許して下
さいませんか?
・・・と、寮に電話を入れてみるんですよ。
それで駄目だと言われれば諦めるしかありませんが、もし許可が降りれ
ば、このままはやかと一緒に札幌まで行けると思いまして。
どうでしょうか?

ターニャは、真面目な顔のまま、さらりとそんな台詞を言ってのけてし
まった。
で、葉野香はと言うと、始め呆気に取られてポォ〜としていたのも束の
間、今度は『プゥ〜ッ!!』と吹きだし、お腹を抱えて大笑いし始めて
いた。

葉野香>
あっはっはっはぁ〜っ!!!!ななな、何それ!!?さささ、最高!!
そそそ、それだったらあたし、いくらだって怪我してあげるよ!!
で、でも、そんな事して本当に大丈夫なの!!?

ターニャ>
はい、嘘も方便ですから。

葉野香>
・・・・・・・・・・・・!!

ターニャ>
・・・・・・・・・・・・!!

そして、小樽駅入り口では、ふたりの笑い声が響き渡ったのであった。


 

■ 北へ。サイドストーリ小説『友達』2に戻る ■

■ 北へ。サイドストーリ小説『友達』4へ進む ■

■ SSのトップに戻る ■