『友達』

         『4』

葉野香>
しっかし、本当に許可が降りるとはね。

ターニャ>
はい。わたしも驚きです。

葉野香>
あ、あのねぇ〜・・・

ターニャ>
フフフフ・・・

ここは、札幌行きの汽車の中。
結局の所、ターニャの『大嘘』は、ばれなかった。ようは、許可が降り
たのだ。
普段、真面目に仕事に取り込み、門限違反も遅刻も一切無いターニャの
素行の良さが、功を得たのだろう。
何はともあれ、こうしてふたりが一緒にいられる時間が少し延びた訳で。

葉野香>
そうだ!!どうせだったら今日家に来ない?まぁ、なぁ〜んにもない家
だけどさ、出来るだけのおもてなしもするよ?どう?

葉野香のそんな誘いに少し考えるような間を置いてから、にっこりと答
えるターニャ。

ターニャ>
そうですね・・・でもそれは、また今度にします。

葉野香>
えっ?な、なんで?

ちょっとがっかりしたような顔つきになってしまった葉野香を宥めるよ
うにターニャは、話しを続ける。

ターニャ>
たしか、はやかのお家は、ラーメン屋さんでしたよね?
どうですか?おにいさんの腕前は、上がりましたか?

葉野香>
いや、全然・・・相変わらずのままだよ。

ふぅ〜やれやれ・・・と、溜息を漏らす葉野香。

ターニャ>
そうですか・・・それでしたら、おにいさんのラーメンの腕前が上がっ
てから、はやかの家へ食べに行きます。
そのほうが、はやかとしても気分的にいいのでは、ないですか?
わたしもツヴェト・ザカータの完成目指して頑張ります。
どちらが早いか、競争です。

その台詞を聞いた途端、葉野香は、にやりとして言葉を返した。

葉野香>
へぇ〜・・・そいつは、面白いや。
こうなったら、うちのクソ兄貴に発破掛けて、何がなんでもラーメンの
腕、上げさせないとな。
でないと、何時までもターニャ、家に来てくれないし。
よ〜し、ターニャ!!その勝負、受けて立つよ!!

ターニャ>
はい!!存分に受けて立って下さい!!
わたし、負けませんよ?

そう、ふたりが言葉を交わすと、ターニャから手を差し出す。
まるで始めてふたりが出会い、握手をしたあの時のように。
葉野香もそれに応えるように手を差し出す。
そしてお互いに強くしっかりと握手をした。
相手の気持ちと温もりをしっかりと感じる瞬間。

葉野香>
あっ、そうだ。まわりに釣られたって訳じゃないんだけでどさ、こんな
の買ってたんだ。
ターニャ、一緒に食べない?

ターニャ>
何ですか?

葉野香>
これこれ!!

そう言って学生鞄から取り出したのは『ロイズの生チョコ』だった。


葉野香>
これって、余計な添加物を一切使っていない美味しくて体に良いチョコ
なんだってさ。
あたしひとりで食べるのもなんだし。

ターニャ>
うわぁ〜・・・本当に美味しそうですね。でも・・・

葉野香>
でも?

ターニャ>
たしか今日は、バレンタインと言う、好きな人や大切な人にチョコレー
トを送る日なのですよね?
でしたら、おにいさんに上げては、如何ですか?きっと喜びますよ?

葉野香>
あ、兄貴に?

ターニャ>
はい。

すると葉野香は、ターニャの提案にしばらくの間『ウ〜ン・・・』と悩
むように唸り声を上げて考え込んでいる。
そして・・・
『よしっ!!』と一声上げると、考えの結論を発表した。

葉野香>
よしっ!!やっぱり食べよう!!

ターニャ>
え・・・?で、でも・・・

葉野香>
心配しなくてもいいよ。ターニャ。
兄貴には、また別のチョコを買っていくよ。
それに・・・ターニャは、あたしにとって大切な友達だからね。
大切に男も女もないだろ?
だから今は、大切な友達のターニャと一緒にこのチョコを食べたいんだ
よ。

そう言って葉野香は、にっこり微笑んでターニャの前にチョコを差し出
した。
飾りっ気のない、だからこそ見ただけで美味しさが伝わって来るチョコ
レート。

ターニャ>
・・・解りました。それじゃあ遠慮なく頂きますね?

葉野香>
うんっ!!食べて食べて!!

そしてふたりは、仲良く美味しくチョコを食べあった。
ほんのり口の中に広がる甘さは、とっても上品なものだった・・・
そんな中、汽車は、滞りなく目的地へと進んでいく。
葉野香とターニャ、ふたりの楽しい一時も一緒に運びながら。

 

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